少年少女講談社文庫『星ものがたり』『花ものがたり』③
前回の投稿から早10日とは… いやはや。
今回はこの少年少女講談社文庫『星ものがたり』『花ものがたり』ばなしの最終回、『花ものがたり』についてです。
こちらの作者は名木田恵子さん。
もう一つのペンネーム、水木杏子さんとしての方がよく知られているかも知れません。
わたしは子どものころから名木田恵子さんの詩的な文章が大好きだったのですが、大人になってからわたしにとってバイブル的な存在である『キャンディ❤キャンディ』の原作者が名木田さんと同一人物だったと知った時は、心底驚いたものです。さながらキャンディがアルバートさんの正体を知った時のような衝撃、とでも言うのでしょうか。
そして、とても腑に落ちたのでした。
本当に、子どものころにわたしがこの方から受けた影響は計り知れません。
さて『星ものがたり』と違って、こちらは科学的なお話はゼロ。
季節ごとに、いろいろな花にまつわる神話や昔話が載っています。
春はアネモネ、わすれなぐさ、チューリップ。
夏にはひまわり、オヒアの木とレフアの花、ほうせんか。
秋のおみなえし、くわの実。
そして冬はヒヤシンス、すいせん、月桂樹のお話が綴られています。
お話によっては少し残酷だったり、登場人物の行動があまりに感情的、ときには衝動的に思えて恐怖感すら抱いたものですが、特に印象的だったのはすいせんのお話でしょうか。
まだ「ナルシスト」という言葉の存在など知らない頃の子どものわたしには、自分の顔を見て恍惚となり、やがてやつれて消えていくという話が衝撃でした。
しかも、身近に咲いているすいせんの花にこんな話が言い伝えられていたなんて。
どちらかというと地味な花だと思っていたすいせんの意外な一面を見てしまったようで、ショックだったのです。
それから、身近な花といえば学校で水栽培をしたヒヤシンスにも人間の欲望がからんだ伝説が残っていて、それもとても印象的でした。
今でも、ヒヤシンスの花を見るたびに思い出します。
本の中には、上記の季節の花たちとは別に「ばらのノート」として数ページにわたりばらについてのコラムが書かれています。やはりばらは特別な花なのでしょうか。
子どものころ、ばらの花はちょっと苦手でした。
なんだか自己主張が激しい感じがして…。そのころ一番好きだったのはかすみそうでしたから、真逆の雰囲気ですね。
それでも、その「ばらのノート」で紹介されているばらの魔術や薬、ばらの料理などはとても興味深く読んだ記憶があります。
そういえば、昔「パナップ」という小さなアイスクリームコーンがありましたが、いくつかのフレーバーのなかにばらがあったんですよね。
わたしは特にその味をおいしい、と思ったわけではなかったのにやっぱり特別な感じがして好んでばらを選んで食べていました。
振り返ってみると、ちょうど同じころばら、というかたしか香水ガムと添え書きとともに「イブ」という名前のチューイングガムが売られていたり、いろいろな花の香りがついたボールペンが売られていたり(祖母に買ってもらい宝物になりました)しましたが、花や花を思わせる香りが人気の時代だったのでしょうか。
今回、あらためて「はじめに」の文を読んでみると、名木田さんが参考になさったという本のタイトルがありました。
春山行夫著『花の文化史』です。
1954年から57年にかけて第三巻まで刊行されたこの本、ぜひ読んでみたいです。